日本ユスリカ研究会とは

1.我が国におけるユスリカ研究の歴史

私たちがユスリカ(双翅目ユスリカ科昆虫)研究に着手した1970年代中頃には、ユスリカ学の参考書は、故徳永雅明博士の1937年に出版された日本動物分類第10巻第7編第1号の日本動物分類揺蚊科(1)しかなく、多くは外国の研究者の総説や論文を参考にするしかなかった。その後、しばらくして1977年に静岡大学名誉教授の橋本碩博士が雑誌、遺伝に「日本のキロノムス」、続けて「日本のアカムシ」を著し、わが国の淡水産ユスリカの普通種成虫8種、幼虫7種が紹介された。また、同年国立公害研究所(現在国立環境研)の佐々学博士と九州大学の山本優博士により、日本衛生動物学雑誌に「日本産ユスリカ科既知種の目録(英文)」が掲載され、徳永先生が1930年代にフィリピンの雑誌に記載した種を中心におよそ170種について、学名と和名が整理され、ようやく私たちのユスリカ研究がスタートした。

 1980年代に入り、故森谷清樹博士(当時 神奈川県衛生研究所)が雑誌「用水と廃水」に諸外国の文献を参考に「ユスリカ類概説」を連載した。内容は分類・形態学のみならず、採集法や標本作製法にまでおよんだ。その後、全国の湖沼や河川で大発生した種を中心に、生態学的研究ならびに防除に関する研究が進められた。他方、医学の分野では喘息のアレルゲンとして、特にユスリカ成虫の乾燥遺体が注目され、免疫学的研究と疫学的研究がなされた。

 1995年には、東京大学出版会から「日本のユスリカ(英文)」佐々学・菊池三穂子著が出版され、日本および東アジア産ユスリカおよそ750種について雄成虫をもとに分類され、交尾器の図とともに検索表としてまとめられた。そして、それらの生態、分布などが記された。

2.ユスリカ研究会の発足

 1990年4月には、富山にて「環日本海セミナー・河川の生態学」が開催され、その席上で佐々学先生(当時 富山国際大学学長)より、「ユスリカ学会」設立の提案が成され、セミナー参加者の賛同を得て、現在の「ユスリカ研究会」が発足した。翌年には、信州大学理学部諏訪臨湖実験所にて第2回研究集会が開催された。以降、毎年全国各地で研究集会がもたれ、分類学、形態学、生態学、陸水学、生理学、免疫学、防除学など、多岐にわたって研究発表が成されている。